令和6年度 町長施政方針

更新日:2024年03月05日

施政方針 

1.はじめに (2年間を振り返って)

当町における少子高齢化、人口減少など長年抱えている構造的な課題は、今、地域が存続できるかどうか、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況にまで至っています。明るい未来が見えないことに対する不安に目をつぶり、何も手を打たないことは許されません。時代の行く末をしっかりと見定め、場合によっては地域社会のかたちを変えていく覚悟も必要であります。そのような思いの中、私は、「町民皆さんがこうあってほしいと思われていることと、行政としてやろうとしていることにズレがあってはいけない」、という観点にたって、すべての事業を検証してまいりました。そのためには、町民皆さんの声をよく聴き、行政の事情もきちんと説明し、丁寧な合意形成を行うことが大切であります。そうすることで、「予算を執行する」という姿勢から、「予算で事業を前に進める」という姿勢に変わったと実感しております。さらに、南伊勢町版地域おこし協力隊制度の創設や、地域内の移動に焦点を当てた公共交通の実証モデル事業、総合政策としての買い物不便困難対策への取り組みなど、現状の仕組みや制度に一石を投じる 事業も開始しました。6年度も、これまで展開してきた施策をさらに精度を上げるとともに、新たな取り組みを模索しながら、明るく元気な南伊勢町への道筋を切り拓いてまいります。

2.令和6年度予算案と執行体制

こうした思いで編成した令和6年度予算案は、一般会計で117億7,480万4千円、3つの特別会計で49億7,400万円、3つの企業会計で30億1,213万9千円、そのすべてを合わせた総額は、197億6,094万3千円となりました。

総合計画に掲げる 「活力ある産業・経済」、「安全安心のまち」、「子育て応援日本一のまち」、「誰もが元気なまち」、「輝きを持てるまち」という5つの観点で、まちづくりを前に進めるための戦略的な事業を盛り込んでいます。

依然として、町の財政は厳しい状況ではありますが、その中にあっても健全な財政運営を維持しつつ、中長期的な視点に立ち、基金や町債も計画的に活用することで、持続可能な、メリハリのある予算を練り上げることができたと感じております。また、私は、町長に就任して以来、「すぐにできることはすぐにやる」、「できない、ではなく、どうすればできるか考える」ことを職員と共有し、新しい考え方や、やり方にどんどん挑戦していこうと呼びかけてきました。そして、それは確実に遂行されており、政策実行を支える執行体制となっています。なお、令和7年秋に開催される全国豊かな海づくり大会に向けては、三重県への職員派遣をはじめ、水産農林課を中心に体制の充実を図り、大会の成功に向けてしっかり取り組んでまいります。

 

3.主要な政策

これより総合計画に沿って、主要な施策について申し述べます。

まずは、稼ぐ力を育む「活力ある産業経済」であります。

昨年度、町の基幹産業である一次産業が南伊勢町の稼ぐ力の柱となるためには「高齢化と後継者不足」への対応が鍵であるとして、南伊勢町版地域おこし協力隊制度として一次産業後継者育成事業をスタートさせました。その結果、農林水産分野でこの制度を利用して事業継承や後継者育成に取り組むとしている事業者が17になり、現在後継者が10名生まれています。そのほかにも、フィッシャーマンジャパンとともに開催している「漁師塾」に参加して、地域おこし協力隊として町内事業所への就職を決めた人もいます。これらは、大変うれしく、ありがたい成果であります。これからも、これまで同様あの手この手で、稼ぐ力の基礎となる、継ぎたい・継がせたいという思いを実現できるよう後押しをしてまいります。なお、流通機能と災害リスクへの対応力を併せて強化する水産基盤整備事業 「奈屋浦漁港再編整備事業」は、6年度から事業に着手いたします。令和7年秋に、宿田曽漁港を海上パレード・放流会場として開催される全国豊かな海づくり大会に向けては、水産業の振興と発展に係る絶好の機会ととらえ、三重県や志摩市、外湾漁協と連携して大会の成功に向けて取り組んでまいります。また、今年秋に開催される豊かな海づくり大会のプレイベントに併せてみなみいせまつりを開催し、南伊勢町の魅力を発信していきたいと思います。

次に、ふるさと納税についてです。

ふるさと納税制度には全国から応援とともに財政収入を得られる、また、町の商品をPRできるという大きなメリットがあります。6年度はこのメリットを最大限生かせるように、新たな特産品づくりに力を入れていきます。また、併せて、企業版ふるさと納税についても力を入れていきたいと考えます。

次に、「安全安心のまち」であります。

非常時にしっかりと備え、住民の安全・安心を守っていくことは、町の重要な責務であります。特に能登半島地震や、頻発し激甚化する豪雨などを見ると、これまでの備えを見直していく必要を強く感じています。

南海トラフの地震津波が危惧される当町としては、東日本大震災を教訓として、津波から命を守るために、高台へ避難できる避難路を作り、避難所を整備してきました。10年余りが経過し、避難路や避難所の状態も見直しが必要であると考え、昨年度から再整備を行っています。また、マンホールトイレや保存水タンクの設置、避難所へのさまざまな備蓄など、備える体制は充実してきていると思っております。しかし、いま、あらたに直面した課題は、『その避難所で町民の命が守れるのか』ということであります。寸断された国道、直ちには復旧しない電気や水、環境が整わない避難所で疲弊する人々、混乱を極める地域。能登半島地震において広域避難の必要が叫ばれましたが、当町においても同じことが言えます。幸いにして、当町では、能登半島地震発災の前から、周辺の町と、防災相互応援について協議を進めておりましたところ、このたび、その協議が整い、これまでの度会町に加え、玉城町、大紀町とも協定を結び、お互いに支援協力するとともに、当町にとりましては町外へのいち早い避難の体制のしくみを作ることもできました。町民の命を守るため、あらためて、町がやることを整理するとともに、一つの町でやれることは何かと考えながら、必要に応じて、広域での連携や、関係事業者との連携等を進めたいと思います。また、日常の安全と災害時の安心を確保し、観光・流通などの経済を支える『命の道、生活の道、産業の道、教育の道』として重要な役割を果たす幹線道路である国道260号は、名実ともに命をつなぐ道であることをあらためて思い知らされました。この全区間が、少しでも早く、確実に改修が進むよう全力で取り組んでまいります。そして、水道管であります。現在の水道管は老朽化が進んでおり、施設更新と耐震化が急務であるなか、莫大な経費が課題となっております。これは全国的な課題であり、当町では昨年度から国への支援要望を開始しておりますが、より確実な事業実施に向けて取り組みを強化したいと考えております。なお、国道260号の船越工区の進捗状況を踏まえながら計画を進めてきた旧五ケ所中学校跡地の利用計画は、6年度に住宅用分譲地として整備を行います。

次に、「子育て応援日本一のまち」です。

子育てに係る経済的負担を軽減するとともに、子どもの成長を町ぐるみで祝う、その考えで子育て世帯を支援してきましたが、本年度もこれを継続し、18歳まではこの町で育てるというメッセージを送り続けます。

そして、保育園や小学校、中学校では、子どもを真ん中において、子どもたちにとって何が最も良いことなのかを常に考えながら、できるだけたくさんの学びや経験の機会に触れ、健やかに成長できるよう活動を行っていきます。なお、川沿いの低地にありましたなかよし保育園は、津波から子どもたちを守るために安全な高台、南島中学校の敷地内に新設移転するための工事に着手いたします。また、南島地区小・中学校の新設につきましても確実な計画の実施に向け進めてまいります。

次に「誰もが元気なまち」です。

人生100年時代、心豊かで、元気な高齢者をめざして、みんなと一緒に楽しい時間を過ごせる居場所づくりは、これからも続けてまいります。一方で、一人暮らしや、高齢者のみで暮らしておられる方、障がいをお持ちの方、生活が厳しい状況にある方など、何かしらの支援が必要であると思われても、そのニーズが表面化しにくい構造があります。声にならない声を聴きとり、一人一人に寄り添う支援につなげるための体制を強化していきます。さらに、すべての町民の穏やかな生活を支える医療を充実させるため、町立南伊勢病院と南島メディカルセンターの連携を一層進めます。4月から町立南伊勢病院の名誉院長である宮?先生が、南島メディカルセンターのセンター長に就任されます。また、南伊勢町版地域おこし協力隊制度は、介護・福祉分野においても13事業所で18名の就業者を生んでおり、事業継続や拡充に大きく貢献しています。6年度も、医療と介護、福祉が一体となって町民の安心を支えていく体制を、しっかり支援していきたいと考えます。なお、慥柄浦の高台に福祉避難所を兼ねて新築移転するかもめ作業所、旧穂原保育園を改修して移転するかえで作業所は、ともに事業を進めており、6年度中の移転となる予定です。公園の整備については、子どもから高齢者まで、地域の皆さんがふれあう憩いの場所づくりとして進めてきましたが、昨年12月に完成した 『なんとう公園』で走り回る子どもたちや、ベンチで談笑する人々をみて、公園の必要性を再認識しております。6年度は旧穂原小学校のグランドの整備を支援するとともに、これからも、地域内の広場や遊具の整備を進めてまいります。

次に「輝きを持てるまち」です。

地域は存続していけるのか、という課題については、自ら危機感を持ち、それを町に伝えていただいている地域も少なくありません。この課題解決はたいへん難しいことでありますが、私は、地域で暮らし続けるための一つの地域コミュニティのあり方として、「地域協議会」を提案したいと思います。これは、身近な地域の課題を、そこで暮らす住民の皆さん自らがその解決方法等を議論し、よりよい解決策を導き出すための機関として設置するものであり、地域の運営組織の一つの形となりうるのではないか、と考えるものであります。設置の可能性の有無を含め、地域の皆さんと丁寧かつ慎重に協議していきたいと思います。

次に、「買い物不便・困難対策」です

買い物不便・困難対策プロジェクトは、買い物をキーワードとして、「地域の商店・店舗の継続」「買い物に出かけること」「買い物に行けない人の支援」について、それぞれの地域性を鑑みながら対策を講じていく取り組みであります。これまで、買い物に出かけることをひとつの目的とした地域内公共交通モデル事業や、店舗を閉鎖する農協との善後策協議、及び移動販売車の充実等を行ってきました。6年度は地域における日常生活の継続に大きく関わりを持つとされる日用品や食料品を取りあつかう店舗の継続について、国・県とともに支援する事業を開始いたします。商工会など関係機関との連携を密にして事業実施していきたいと考えます。

 

4.公共施設の適正管理

既設の公共施設の多くは老朽化や維持管理のための整備が必要となっていますが、財源に限りがあること、また人口減少などの社会情勢の変化によって施設の需要も変化していることなどから、すべての公共施設を維持管理していくことは難しいと思っております。公共施設の全体の状況を把握し、利用者皆さんの声も聴きながら、総合的かつ計画的に 管理していきたいと考えます。用途を廃止した公共施設については、廃校になった学校施設を避難所として活用するなど、現在のニーズに合わせて活用できる施設には必要な整備を行うとともに、防災や安全対策の観点から、利用予定の無い公共施設の解体・撤去にも着手してまいります。このような公共施設は、何ら対策もせず、今までどおりの状態を続けると、施設の荒廃や事故に繋がり、住民の安全や安心が脅かされることになります。「いずれやらなければならないことは、今日やる。先送りや積み残しはしない」、という考えに立って、移転後4年を経過した旧町立病院と、昨年度業務を停止した出張所などを解体・撤去します。

 

5、おわりに

町長に就任して以来、職員とともに、町政を前進させていく責任の重さを、全身で感じながらの毎日でしたが、早くも2年余が経過いたしました。この間、様々な行政課題に直面しながらも、前を向いてやってこられたのは、ひとえに町民の皆様や議員各位、関係団体の皆様のご理解、ご協力に支えられた結果と考えており、心より感謝申し上げる次第であります。南伊勢町を取り巻く社会環境は大変厳しく、多岐にわたる懸案課題を抱えますが、この困難な状況においても、町民の皆様に住み続けていただける、幸せを感じていただけるまちであり続けるため、私は、この町で暮らす人、仕事などで関わる人、故郷として大事に思っていただく人、そのほか様々な形で関わるすべての人の力をお借りし、オール南伊勢でまちづくりを進めていきたいと思っております。

私は、この2年間、信条である「一人一人の声をかたちにする」を胸に刻みながら、町政運営に邁進してまいりました。

これからも

「町民の命と生活を守ること」

「日々の暮らしに幸せを感じてもらうこと」

「未来に希望を持ってもらうこと」

そのために、全力を尽くしてまいります。

町議会の皆様、町民の皆様のご理解とご協力をお願いいたします。

 

南伊勢町長 上村 久仁